2008.04.23
偶然の海への誘い
風の強かった先週末でしたが、BEACH MARKETもあってひときわ賑わいました。その機会にスライドショーをしてくださったsaeさんのお話には印象に残ったものが詰まっていました。そのひとつが、サーフィンをますます楽しく紡ぐヒントをもらったメンターの話し。一人で海に向き合うことの厳しさをたたきこまれたのはマウイの古矢ヒデミさん、エレガントに波と戯れることはここBEACHの代表のROKUから。そして、遥か遠くから伝わったエネルギーであるかもしれない波を大切にすることは、河村マミさんでした。(マミさんにはこの土曜日にサーフトリップの映像に合わせたライブをBEACHでご披露いただけますよ。)
自分が幸運にも得た経験をまた他の方へとシェア。そして再確認できることって素敵なことだなと思います。そんなこともあって、これからもっと海にかかわりたいと想っている方に向けて、ちょっと長いのですが、お伝えしたいことをつづります。
ハードルにぶち当たり悪戦苦闘、四苦八苦の時から、ある瞬間にそこを突き抜けるようなことがあります。それは、時にメンターの言葉だったり、「これだ!」という閃ききだったり、または偶然ということもあるでしょう。瞬間的に体内の血が入れ替わるような衝撃とまではいかなくても、コトの大なり小なりはれど、そんな経験を何度となく繰り返しながら生きているのではないでしょうか。
海は、じつにそんな瞬間を重ねやすいところです。
10年ほど前のことです。青い空に立ち伸びるココヤシがゆらゆらと揺れるサンゴ礁の島で黒蝶真珠の養殖場で僕は仕事と生活をしていました。期待していた波乗りのポイントには簡単にアクセスできず、深海からいきなり干上がるほどの浅瀬で横一直線に怒涛のように砕け散る波しぶきを眺めていました。そんな海の反対側には、穏やかなラグーン(内海)がありました。
朝7時から午後3時まで、途中1時間の休憩を挟んで、ラグーンの上に建てられた小屋の中で、ただただひたすら黒蝶貝に真珠の核入れ作業に向き合う日々。その後は、後日どの貝たちに核を入れるか、ラグーンの海へ潜っては観察します。スキューバダイビングで、です。貝の沈められている水深10mから15mほどのところで潜って作業をしていると、タヒチアンたちはエアタンクも背負わずに、水中マスクと足ヒレだけで、涼しげな顔をしてやってくるのです。そのシンプルな様は、なんとも優雅なものです。
では、自分はといえばスキューバのライセンスをとる時から耳抜きがうまいこと出来ず、時間的余裕のない素潜りなどは到底身につけられないものと捉えていました。とはいっても、せっかく海に囲まれた生活をしているのだから、ある程度は素潜りをできるようにとトライ。その度に耳がキーン、グッ、グッグ・・・。。アタッタタターとばかりに全くもって進歩ナシの状態が続き、海面をただただ泳いでいるとコバンザメがくっつこうとやって来ても、一向にくっつくわけもなく、なんだお前は海のモノではないなと去っていくのすら惨めに感じていました。
自分は体質的に耳抜きがしにくいから素潜りは難しいんだな、とやがてはすっかり半ば諦めてからのことでした。ラグーンの中にある小屋の橋ゲタには、管理するために紐で数珠繋ぎとなった黒蝶貝がいくつか引っかかっていました。ある日、水の中の橋ゲタに立ちながら引っかかっている貝を引き上げていたときのことです。小屋の前にあるスノコの上にあげようとした瞬間に、橋ゲタから足を滑らせた僕は貝の重さによって、静かに海の中へと誘われていきました。頭が上で身を立てたまま沈んでいったせいでしゅうか。水底まで沈むゆく時間が、冷静というより心地よさすら感じていました。水底にすっと着地すると、身体をぐるりと360度回し、小さな小さな無数の気泡が輝きを放ちながら昇るその先には、ゆらゆらと揺れる天空のような水面きらめいていました。そして両手の先にある貝に「ありがとう」と告げ、ゆっくりと水底を蹴り上げたのでした。昇る泡の数々を追うように水面に出て、お腹いっぱいに空気を吸った瞬間、自分がこれまでとは違う何かに生まれ変わった気がしました。それは間違いではありませんでした。それ以降、海に潜っても難なくして耳抜きができるようになり、養殖のための黒蝶貝が沈めてある程度の深さを行き来できるようになったのです。
水の中へと願う一方で、抱えていた恐れや不安を敏感に身体は反映していたのでしょう。ところが偶然からもたらされた経験によって、あるところまでは水の中へ潜ることは不安はないとインプットされたのです。この幸運な経験は、自分にとっていくつかの教訓のうようなものを示してくれたと受け取っています。
いずれにせよ、海を主体的に経験することは、メンターの言葉や良書を読書をするのにも劣らない、その後の人生に生かすことのできる貴重で、素晴らしいものを得られるとこです。さあ、海開きを7月まで待たずに、より深く海とのかかわりにトライしてみませんか。
PS:タヒチの黒蝶真珠の養殖のイメージはこちら、Tim McKennaのWEBサイトです。
- 2008.04.23
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